法人化しているクリニックでは院長先生にお給料を支給することができます。ほとんどのケースで院長先生は法人の役員となっているかと思いますので、お給料は役員報酬となります。
では、院長先生の役員報酬の金額はどのように決めていますか?
役員報酬の金額を決めるには、まずスタッフに支給するお給料と役員報酬の違いを抑えておく必要があります。役員報酬とお給料の一番の違いは、金額の変動ができるかどうかです。お給料は勤務時間であったり、クリニックへの貢献度であったりで変動しますが、役員報酬は金額の変動をさせることができません。年に一度、金額を決めたら、その金額で一年間通して支給することとなり、これを定期同額給与といいます。
クリニックの業績が良ければ多めにとったり、業績が下向きの時には抑えたりしたいのがご心情ではないかと思いますが、これをやってしまいますと、一部が法人税などの計算をする際の経費とは認められなくなってしまいます。
例えば50万円の役員報酬を10ヶ月支給したあと、残りの2ヶ月だけ80万円を支給したとします。この場合、80万円の支給のうち30万円は同額ではないので、経費とはなりません。しかし、院長先生の個人の所得税は50万円が10ヶ月と80万円が2ヶ月の合計660万円に対してかかりますので、法人税では費用として認められず、所得税がかかってしまうということになります。これは本当に勿体ないことですので、定期同額は徹底するようにしましょう。
役員報酬の額は、年に一度決めることとなりますが、具体的にはいつ決めることになるのでしょうか。通常は決算日から3ヶ月以内に開催される定時株主総会などで決めることになります。
決算日から3ヶ月以内ということは、次の期からすれば期首に近い段階で決めなくてはならないこととなってしまいまので、役員報酬の決定の際にはその期の業績の予測を見積もり、税金で損をすることがないようにしましょう。
役員報酬の額を決める基準はいくつかありますが、ここでは税金の観点から見てみましょう。
例えば、今期の業績をシミュレーションした結果、役員報酬を考慮する前のクリニックの利益が1,000万円であったとします。この場合、役員報酬の決定によって、各種税金の額は次のようになってきます。
(ここでは、扶養なし、社会保険・各種控除は未考慮としています。)
このように役員報酬の金額によって負担する税金に差がでることがお分かり頂けたかと思います。
クリニックの状況や院長先生の家族構成など様々な要因を考慮して綿密にシミュレーションを行うことをお勧め致します。
ここまで税金の面から役員報酬の額による影響を見てきました。しかし役員報酬の額によって負担が変わってくるものは税金のみではなく、社会保険もあります。もちろん高い役員報酬に設定をすれば、社会保険料も高額になってきます。税金・社会保険料の両方を考慮したうえで、金額の決定をするようにしましょう。
また、税金・社会保険料の負担だけで決定をしてしまうと、思ったより役員報酬が少なく院長先生個人の生活ができなくなってしまうことや、逆に役員報酬が高すぎてクリニックの投資を行うための資金が残っていないなどというケースも生じてしまう危険性もあります。
今後の事業展開や院長先生個人の生活まで考慮して役員報酬の適正額を見積もってみてはいかがでしょうか。当事務所では役員報酬のシミュレーションのお手伝いもしていますので、お気軽にお問合せ頂ければ幸いです。